役員報酬として支給される賞与、いわゆる役員賞与を活用することで社会保険料の節約につながると聞いたことはありませんか?一定の条件の下で、社会保険料の対象となる報酬額を抑えられる可能性があるのです。
しかし、役員賞与を適切に運用するためには、税務上の要件や会社法上の手続きなど、押さえておくべきポイントが数多くあります。役員賞与の活用を検討する際は、節税メリットだけでなく、リスク管理の観点からもアプローチする必要があるでしょう。
本記事では、役員賞与と社会保険料の基本的な仕組みから、具体的な活用方法、注意点まで、体系的に解説します。役員報酬の設計に悩む経営者や実務担当者の方々に、ぜひ参考にしていただきたい内容となっています。
役員賞与と社会保険料の基本
役員賞与とは
役員賞与とは、会社の取締役や監査役など、いわゆる役員に対して支給される賞与のことを指します。役員に対する報酬は、通常の給与とは別枠で支給されるのが一般的で、役員賞与もその一部として位置づけられています。役員賞与は、会社の業績や役員個人の功績に応じて支給額が決定される傾向にあります。
役員賞与の支給時期は、定時株主総会後の6月頃に集中することが多いですが、会社によっては12月に支給するケースもあるようです。役員賞与は、株主総会で決議された金額の範囲内で、取締役会の決議により具体的な支給額と支給時期が決定されます。
役員賞与は、会社法上、役員報酬の一部として扱われ、損金算入が可能です。ただし、過大な役員賞与の支給は、税務上の問題を招く恐れがあるため、適切な金額設定が求められます。会社の規模や業績、同業他社の水準などを考慮しながら、バランスの取れた役員賞与の支給を心がける必要があるでしょう。
社会保険料の計算方法
社会保険料は、健康保険や厚生年金保険などの社会保険制度を運営するために徴収される保険料のことを指します。社会保険料は、原則として標準報酬月額に保険料率を乗じて計算されます。標準報酬月額とは、毎年7月に定時決定され、9月から翌年8月までの1年間適用される報酬額のことです。
標準報酬月額は、基本給や手当、賞与などの総支給額から、非課税となる金額を差し引いた額を、1,000円未満の端数を切り捨てて算出します。役員報酬についても、同様の計算方法が適用されます。ただし、役員賞与については、標準賞与額として別途計算し、標準報酬月額とは区別して社会保険料が算定されます。
社会保険料は、会社と従業員が折半して負担するのが原則ですが、健康保険料については、会社が半分以上を負担しなければならないとされています。一方、厚生年金保険料は、労使折半が義務付けられています。社会保険料は、毎月の給与や賞与から天引きされ、会社が取りまとめて納付する仕組みになっています。
社会保険料の計算は、一見複雑そうに見えますが、基本的なルールを理解すれば、それほど難しいものではありません。社会保険料は、従業員の福利厚生や将来の年金受給に直結する重要な制度ですから、適正に計算し、納付することが求められます。
役員賞与による社会保険料の節約効果
賞与に対する社会保険料の上限
役員賞与に対する社会保険料には、健康保険と厚生年金保険でそれぞれ上限が設定されています。健康保険料については、賞与の年間累計額が573万円までが対象となり、それを超える部分は社会保険料の対象外となります。一方、厚生年金保険料については、賞与の1回あたりの支給額が150万円までが対象となり、超過分は社会保険料の対象外となります。
この上限規定は、役員報酬を賞与にシフトさせることで、社会保険料の節約につながる可能性を示唆しています。仮に、年間1,000万円の役員報酬を全て基本給で支払った場合、社会保険料は全額が対象となります。しかし、基本給を540万円、賞与を460万円とした場合、健康保険料の対象となる賞与は460万円までで、厚生年金保険料は150万円までが対象となります。
ただし、社会保険料の節約を目的として、過度に賞与にシフトさせるのは望ましくありません。賞与は本来、会社の業績や役員の功績に応じて支給されるべきものです。社会保険料の節約は、あくまでも結果として生じる副次的な効果と捉えるべきでしょう。役員報酬の設計は、会社の実情や役員の職責などを総合的に勘案して、適切に行われる必要があります。
役員報酬と賞与の組み合わせによるシミュレーション
役員報酬と賞与の組み合わせによって、社会保険料の負担がどのように変化するのか、具体的なシミュレーションを行ってみましょう。ここでは、役員報酬の総額を1,200万円と仮定し、基本給と賞与の割合を変えた場合の社会保険料の試算を行います。
まず、役員報酬を全て基本給で支払った場合、社会保険料の対象となる標準報酬月額は100万円(1,200万円÷12か月)です。仮に、社会保険料率を15%とすると、年間の社会保険料負担額は180万円(100万円×12か月×15%)となります。
次に、基本給を960万円、賞与を240万円とした場合を考えてみます。この場合、標準報酬月額は80万円(960万円÷12か月)、標準賞与額は240万円となります。社会保険料の対象となる賞与額は240万円の全額です。年間の社会保険料負担額は、基本給分が144万円(80万円×12か月×15%)、賞与分が36万円(240万円×15%)で、合計180万円となります。
さらに、基本給を540万円、賞与を660万円とした場合はどうでしょうか。この場合、標準報酬月額は45万円(540万円÷12か月)、標準賞与額は660万円のうち、健康保険料の対象となるのは573万円、厚生年金保険料の対象となるのは150万円が2回(660万円÷150万円の端数切り上げ)の300万円です。年間の社会保険料負担額は、基本給分が81万円(45万円×12か月×15%)、賞与分の健康保険料が85.95万円(573万円×15%)、賞与分の厚生年金保険料が45万円(300万円×15%)で、合計211.95万円となります。
このように、役員報酬の中で賞与の割合を高めることで、社会保険料の負担を抑えられる可能性があります。ただし、先にも述べたように、社会保険料の節約だけを目的とした報酬設計は適切ではありません。会社の業績や役員の職責、同業他社の水準などを十分に考慮し、バランスの取れた報酬体系を構築することが肝要です。
役員賞与を増額するための手続き
税理士の活用
役員賞与の増額を検討する際には、税理士の専門的なアドバイスを求めることが有効です。税理士は、税務や会計の専門家として、役員賞与の適切な設定や手続きについて、的確なサポートを提供してくれます。特に、株主総会での決議や事前確定届出給与の提出など、税務面での煩雑な手続きを円滑に進める上で、税理士の助言は欠かせません。
また、税理士は、役員賞与の増額が会社の財務状況に与える影響や、役員個人の税務メリットなども総合的に判断し、最適な報酬設計を提案してくれます。経営者にとって、税理士は単なる税務の専門家というだけでなく、経営全般をサポートする心強いパートナーとしての役割も担っています。役員賞与の増額を検討する際には、信頼できる千代田区の税理士に相談し、専門的な見地からアドバイスを得ることが賢明と言えるでしょう。
株主総会での決議と議事録の作成
役員賞与を増額するためには、株主総会での決議が必要です。会社法上、役員の報酬は、定款に定めがある場合を除き、株主総会の決議によって定めることとされています。したがって、役員賞与の支給額を変更する際には、株主総会で決議を行い、その内容を議事録に記録しなければなりません。
株主総会では、役員賞与の支給額だけでなく、支給対象となる役員の範囲や支給時期などについても決議します。議案の内容は、事前に取締役会で審議し、決定しておく必要があります。株主総会での決議は、通常、普通決議(出席株主の議決権の過半数の賛成)で行われます。
株主総会の議事録には、決議の内容や賛否の結果、議事の経過などを記載します。議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置き、株主や債権者の閲覧に供する必要があります。役員賞与の増額に関する決議は、株主総会議事録に明確に記録しておくことが重要です。
役員賞与の増額は、株主にとっては配当原資の減少につながるため、株主総会では十分な説明と理解を得る必要があります。会社の業績や役員の貢献度、同業他社の水準などを踏まえ、役員賞与の増額の合理性を丁寧に説明することが求められます。株主総会での決議を経て、適切に議事録を作成することが、役員賞与の増額を正当化する上で欠かせません。
事前確定届出給与の提出
役員賞与を損金算入するためには、事前確定届出給与として税務署に届け出る必要があります。事前確定届出給与とは、役員に対する賞与などの臨時的な給与のうち、支給時期や支給額があらかじめ確定しているものを指します。
事前確定届出給与の届出は、「給与所得の源泉徴収等の規定の適用を受ける給与等の届出書」を税務署に提出することで行います。この届出書には、支給対象となる役員の氏名や支給額、支給時期などを記載します。提出期限は、以下のいずれか早い日となります。
1. 株主総会等の決議日または職務の執行を開始する日のいずれか早い日から1ヶ月以内
2. 事業年度開始の日から4ヶ月以内
新設法人の場合は、設立日から2ヶ月以内が提出期限となります。
届出書の提出が遅れたり、記載内容に不備があったりした場合、役員賞与は損金不算入となり、会社の税負担が増加してしまいます。届出書の提出は、役員賞与を支給する都度、適切に行う必要があります。
事前確定届出給与の届出は、税務署への単なる届出行為ですが、役員賞与の損金算入を確保する上で重要な手続きです。届出書の提出漏れや記載ミスがないよう、十分な注意が必要でしょう。また、届出内容と実際の支給内容に相違があった場合、損金不算入のリスクがあることにも留意が必要です。
事前確定届出給与の適正な運用は、役員賞与の損金算入を確保し、会社の税務リスクを回避する上で欠かせません。届出書の作成や提出に当たっては、税理士などの専門家の助言を得ながら、慎重に進めることが望ましいでしょう。
役員賞与を活用する際の注意点
税務上のリスクと損金不算入の可能性
役員賞与を活用する際には、税務上のリスクに十分な注意が必要です。役員賞与は、原則として損金算入が認められますが、一定の要件を満たさない場合、損金不算入となる可能性があります。
損金不算入となるケースとしては、まず、事前確定届出給与の届出が適切に行われていない場合が挙げられます。届出書の提出漏れや記載内容の不備があると、役員賞与は損金不算入となってしまいます。
また、役員賞与の支給額が、会社の業績や同業他社の水準に照らして著しく高額であると税務当局に判断された場合も、損金不算入のリスクがあります。役員賞与の金額設定は、合理的な根拠に基づいて行う必要があります。
さらに、役員賞与の支給時期が適切でない場合も、損金不算入となる可能性があります。事前確定届出給与として届け出た支給時期と実際の支給時期が異なる場合などがこれに該当します。役員賞与の支給時期は、届出内容と合致させる必要があります。
このように、役員賞与の損金算入は、一定の要件を満たすことが前提となります。要件を満たさない役員賞与は、損金不算入となり、会社の税負担を増加させるリスクがあります。役員賞与を活用する際には、税務上のリスクを十分に理解し、適切な運用を心がける必要があるでしょう。
資金繰りと生活費のバランス
役員賞与を活用する際には、会社の資金繰りと役員個人の生活費のバランスにも注意が必要です。役員賞与は、会社の業績や役員の功績に応じて支給されるため、支給額や支給時期が不安定になりがちです。
会社の資金繰りが厳しい時期に、多額の役員賞与を支給すると、会社の財務状況を圧迫する恐れがあります。役員賞与の支給は、会社の資金繰りを十分に考慮した上で、適切な時期と金額で行う必要があります。
一方で、役員個人の立場からは、役員賞与が生活費の重要な部分を占めている場合、支給時期や支給額の変動が家計に大きな影響を与える可能性があります。役員賞与への依存度が高くなりすぎないよう、生活費の設計にも配慮が必要でしょう。
役員報酬の中で、安定的な基本給の割合を高めに設定し、生活費の多くを賄えるようにしておくことが望ましいと言えます。役員賞与は、あくまでも臨時的な収入と位置づけ、生活費の設計に当たっては、過度に期待しないことが肝要です。
役員賞与を活用する際には、会社の資金繰りと役員個人の生活費のバランスを考慮し、双方にとって無理のない水準で支給額や支給時期を設定することが求められます。会社の財務状況と役員個人の家計状況の両面から、役員賞与の適切な活用方法を検討する必要があるでしょう。
将来の年金受給額への影響
役員賞与の活用は、将来の年金受給額にも影響を及ぼす可能性があります。公的年金の報酬比例部分の額は、在職中の標準報酬月額と標準賞与額に基づいて算定されます。役員報酬の中で賞与の割合を高めることで、社会保険料の節約効果が期待できる一方で、将来受け取る年金の額が減少するリスクもあるのです。
特に、役員として在職する期間が長い場合、賞与中心の報酬体系が長期的に続くと、年金受給額への影響が大きくなる恐れがあります。役員報酬の設計に当たっては、社会保険料の節約効果だけでなく、将来の年金受給額への影響も考慮する必要があります。
ただし、役員報酬の設計と年金受給額の関係は、一律に論じることはできません。年金額は、在職期間や報酬水準、賞与の支給時期などによっても変動します。また、役員の年齢によっては、年金受給までの期間が長く、報酬設計の影響が限定的になる場合もあります。
将来の年金受給額への影響は、役員賞与の活用を検討する際の一つの視点ではありますが、画一的に判断することは適切ではありません。会社の実情や役員のライフプランなどを総合的に勘案し、バランスの取れた報酬設計を行うことが肝要と言えるでしょう。
社会保険料圧縮スキームの見直し動向
厚生労働省の検討状況
役員賞与を活用した社会保険料の節約策については、近年、厚生労働省において見直しの動きがあります。厚生労働省は、役員賞与への過度なシフトが社会保険制度の趣旨に反するとの認識から、制度の見直しを検討しています。
具体的には、役員賞与に対する社会保険料の上限設定について、見直しが検討されています。現行の健康保険料の年間上限額573万円や、厚生年金保険料の1回あたりの上限額150万円を引き下げ、社会保険料の節約効果を抑制する方向で議論が進められているようです。
また、役員賞与の損金算入要件についても、厳格化が検討されています。事前確定届出給与の適用範囲を限定したり、届出内容と実際の支給内容の乖離に対する罰則を強化したりすることで、不適切な役員賞与の抑制を図る方向性が示されています。
厚生労働省の検討状況は、社会保険料の節約を目的とした役員賞与の活用に一定の歯止めをかける可能性を示唆しています。役員賞与を活用する際には、制度見直しの動向にも注視し、適切な対応を図ることが求められます。
ただし、厚生労働省の検討は、あくまでも社会保険制度の健全性を維持する観点から行われるものです。会社の実情に応じた役員報酬の設計は、引き続き重要な経営判断の一つと言えるでしょう。制度見直しの動向を踏まえつつ、適切な報酬設計を行うことが肝要です。
今後の制度変更の可能性
役員賞与に関する社会保険料の取扱いについては、今後、制度変更が行われる可能性があります。厚生労働省の検討状況を踏まえると、役員賞与への社会保険料の上限設定の引下げや、損金算入要件の厳格化などが実施される可能性が考えられます。
ただし、制度変更の具体的な内容や実施時期については、現時点では明らかになっていません。役員賞与を活用した社会保険料の節約策は、長年にわたって行われてきた実務慣行であり、急激な制度変更には慎重な検討が必要とされているようです。
また、制度変更によって、役員賞与の活用が全く否定されるわけではありません。社会保険制度の趣旨に沿った適切な範囲での役員賞与の活用は、引き続き認められるものと考えられます。制度変更の動向を注視しつつ、適切な報酬設計を行うことが重要でしょう。
今後の制度変更の可能性は、役員賞与の活用を検討する上で、一つの不確定要素と言えます。制度変更の動向に過度に振り回されることなく、会社の実情や役員の職責などを総合的に勘案し、バランスの取れた報酬設計を行うことが肝要です。同時に、制度変更に備えて、役員報酬の設計の在り方を定期的に見直すことも重要と言えるでしょう。
役員賞与と社会保険料の活用のまとめ
役員賞与は、会社の業績や役員の功績に応じて支給される賞与のことを指します。役員報酬の一部として損金算入が可能ですが、社会保険料の計算においては、賞与に特有の取扱いがあります。健康保険料と厚生年金保険料には、それぞれ賞与に対する上限が設定されており、この上限を活用することで、社会保険料の節約効果が期待できます。
ただし、役員賞与の増額には、株主総会での決議や事前確定届出給与の提出など、適切な手続きが必要です。また、税務上のリスクや会社の資金繰り、役員個人の生活設計など、様々な観点から検討することが重要です。今後、役員賞与を活用した社会保険料の節約策については、制度の見直しが進む可能性もあるため、動向に注視していく必要があるでしょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 役員賞与とは | 会社の業績や役員の功績に応じて支給される賞与 |
| 社会保険料の計算 | 健康保険料は賞与の年間累計額に上限、厚生年金保険料は賞与の1回あたりの支給額に上限あり |
| 役員賞与の増額手続き | 株主総会での決議と事前確定届出給与の提出が必要 |
| 活用する際の注意点 | 税務リスク、資金繰り、将来の年金受給額への影響などを考慮 |
| 社会保険料圧縮スキームの見直し | 厚生労働省で制度の見直しが検討されている |
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